(続き)
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「俺は河童と話をしたことがある。
嘘ではない。
皿からこぼれる水が、
苔だか藻だか分からない髪のようなモノを
ジットりと、湿らせ続けた。
だから、俺は河童と話したことがある。
なんなら、踊ったことだってある。」
そう言って、フランクな笑みを湛える男は、
今でこそ合衆国はシカゴで悠々自適の生活を送っているが
かつて、僕らの国で生きる道を見失った男だ。
電気化学の研究の果てに行きついたのは
自由という名で装飾された単純な貧困であった。
0から富を生み出すことなど、男にはできない。
それでも、米を頬張り、パンを貪って生きた。
初めのうちは一丁前に日本人らしく恥なども感じたが、
イズミヤでレジを打ち、内職漬けの生活も煮詰まると
いよいよもって、幻なども見えるようになった。
朝刊の配達を終えた道すがら
点滅する信号の横断歩道を
ひょろ長い黒い影がユラユラと続いていく。
スーパーカブを止めて目を凝らした男には、
それが河童にしか見えなかった。
あれは、どう見ても河童であった。
(そして、生ぬるい風に煽られた一面見出しには