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神7のストーリーを作ろうの会part11

1ユーは名無しネ
AAS
前スレ 神7のストーリーを作ろうの会part10
http://anago.2ch.net/test/read.cgi/jr2/1414066651/l50

2015/05/05(火)15:46:04.670.net


699ユーは名無しネ

AAS

NG

教会を訪ねると、嶺亜はまだ用事から戻ってきていないとのことだった。神父である爺さんに泊めてくれるよう願い出たがそれはこんな風に一蹴されてしまう。
「岩橋の倅、お前のところの病棟の地下室をあてがってやれ。あそこなら目が行き届くだろう。父親にはわしから話しておく」
「ちょ、病院の地下室って…」
谷村だけでなく皆も嫌な予感を抱く。そこをなんとか、と栗田は頑張ったが取り合ってもらえなかった。
「仕方がないよ。他の時期ならまだしも今は…」
玄樹が皆を宥めようとするが、そもそもなんの時期かも知らないのだから納得しようがない。
「なんなんだよその時期って。こうなった以上俺らにも聞く権利あるよな?」
一気に機嫌の悪くなった栗田が教会を出てすぐ玄樹と神宮寺に尋ねた。彼らは顔を見合わせる。だが返ってきた説明はやはりはっきりとしないものだった。
「背分教の儀式みたいなもので…この時期は皆日没前にお守りを玄関先において夜が明けるまで家の中に閉じこもるんだ」
「そっか…だから昨日の夜、全部の家の雨戸も閉まって変なお守りが玄関先に置いてあったんだ」
岸くんはぽん、と手を叩いた。
「へえ…イスラム教とかにも似たようなのがあるよね?ラマダンとか」
颯が岸くんに耳打ちしたが岸くんは宗教にはくわしくないので首を傾けることしかできない。
「池の畔の建物は知ってるよね?あそこで儀式が行われるから関係者以外は絶対立ち入り禁止なんだ。破ると村にいられなくなる。だから絶対に禁は犯せない」
「くっだらねー。てか俺らは別に村にいられなくなっても困らねえからそっち行かしてもらうわ」
郁がマウンテンバイクに跨がると、もの凄い形相で玄樹がそれを止めに入った。その剣幕に岸くんたちだけでなく神宮寺も動揺を見せる。
「それだけはやめて!!お願いだから…!!」
「お、おい、なんだよ。別に玄樹達には迷惑かけねーし」
たじろぐ郁に、神宮寺が玄樹を宥めながら代弁した。
「悪いなお前ら…お前らのことは玄樹が頼まれてるから…あそこに立ち入ったことがバレたりしたら今度は玄樹と玄樹の家が責められる…それだけは勘弁してくれ。この通りだ」
「…」
この村には何かある。誰もがもうそれを疑いから確信に変えつつあった。だがそれが何なのか…それを知る術は今のところない。
ここで押し問答をしていても仕方がないと判断した岸くんは、渋る栗田と「病院の隔離室」に怯える谷村を説得して玄樹の家である岩橋病院に行くことにした。




つづく

2018/01/21(日)22:48:05.85(hyjaZFVAm)


700ユーは名無しネ

AAS

NG

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」


玄樹の家は食堂がある村の中心部からほど近い場所にあり、「岩橋医院」と看板が掲げられていた。重厚な門扉を抜けると、そこにはけっこうな邸宅が佇んでいる。そしてその背後には病棟のようなものが見えた。
遠目にももう使われていないことが分かるくらい荒廃しており、まるでホラー映画の世界だ。入り口の前にある大きな灯籠には苔がびっしりとこびりついていた。
玄樹の案内で裏庭に回り、その建物と対峙する。
「…」
谷村はお経を唱えながら指をくるくるやりだした。これは彼の精神状態がかなり限界に近いことを示している。それを察知した栗田が控えめにお尻を蹴った。
「来ちまったもんは仕方ねーだろ!一晩我慢して出直しだ!」
「…」
しかし谷村は尻の痛みよりもう恐怖でおかしくなりそうだった。こんなことになるなら殺されてでもこの企画を拒否するべきだったと心底自分を呪う。
「さすがにこれは…想像以上…」
岸くんも涙目だった。もはやミステリーよりホラー…これは俺の分野じゃない…
「野宿の方がマシかも…」
さすがの颯も青ざめている。彼らのドン引きの様子を見て、玄樹は手を合わせた。
「ゴメンね、本当に…。でも僕たちは教会の言うことに異を唱えることは出来なくて…それ意外では不自由させないから」
「こんなとこに泊めるくらいだから夕飯はさぞかしご馳走だろうな?」
高校生の郁が最も度胸があるかもしれない。これを見てなお、食い物の心配の方が勝るとはなんたる肝っ玉。大学生たちは驚嘆した。
「まあこんなことになったのも責任はこの村にあるようなもんだ。俺が拝み倒してやるからお前ら食いたいもんなんでも言えよ」
神宮寺のその返しに歓声をあげたのはやはり郁だけで、岸くん達は食欲がもう彼方に行ってしまった。栗田だけは食欲とも恐怖心とも全く無関係で、考えることと言えば嶺亜のことだけだ。
「なあおい、れいあの用事ってなんだよ?言っちゃなんだがけっこう俺には心許してくれそーな感じしたからてっきり仲良くなれると思ったんだけどよ、うぬぼれじゃなくてな。でもなんかのっぴきならねーって感じしたから俺ずっと気になってんだよ」
「…」
また玄樹の表情が強張る。彼はどうやらポーカーフェイスが苦手のようだ。岸くん達はそれを察知したが返ってきたのはやはり曖昧な返事だ。
「…教会の用事だよ。儀式の準備をするんだ。だから何をおいても最優先なんだよ。嶺亜は一応神父見習いってことになってるけど、実際はあそこの役割を一手に担っているから」
「んだよ、儀式の準備って。イモリとかカエルとか用意すんのかぁ?」
「そんな古典的なんじゃねーよ。お前ら変な本読みすぎ」
素っ気なく答えて神宮寺は食べたいメニューのメモを取る(そのほとんどは郁のリクエストだが)。玄樹はというと、鍵束のようなものを持って先頭を歩いた。

2018/02/04(日)19:56:56.36(nEQ5ib16T)


701ユーは名無しネ

AAS

NG

さっきまでうだるような暑さだったのに、病棟に入ると何故かひんやりと冷たい空気が流れ始める。打ちっ放しのコンクリートの壁はところどころにひびが入っていて全体が黴臭い。陰気で不衛生な雰囲気にさっきまでへっちゃらだった郁も眉をひそめ始めた。
入ってすぐに薄暗くなり、玄樹が電気をつける。使われていないのに電気が入ることを颯が不思議に思って聞くと「全く使っていないわけじゃないから」という返事が玄樹から返ってくる。一体どういう意図で使用されているのか気になって仕方がない。
「うわぁ…」
岸くんは思わずそんな声が漏れた。玄樹の次に歩いていたから一番初めにそれを目の当たりにする。地下へ下る階段は電気も届かず闇へまっしぐらだ。玄樹は壁にあった懐中電灯を手に取った。
「地下室だから日光は入らないんだ。でも中は電気がつくからそこまでこれで…」
「下手なお化け屋敷より気持ちわりーなオイ」
栗田の呟きが闇に吸い込まれていく。谷村はその後ろで気を遠くに飛ばしていた。指の動きはかつてないほどに高速になっている。
「ここに…泊まれっていうのか…」
案内された地下室はもうそれだけで異様さがまる分かりだった。まず「部屋」ではなかった。鉄格子で区切られた空間だ。四つあってそれぞれにシンプルにベッドが1台ずつあるだけの恐ろしく簡素なレイアウトに戦慄を覚える。
「これ…一体どういう意図で作られた部屋なの…どうみても拷問部屋か隔離部屋…」
岸くんの問いに、玄樹は壁にある電気のスイッチを押しながら答える。
「昭和初期からある建物だから…その頃はまだ医療が発達していなかったし伝染病とか他の患者から離す必要のある患者を入れてたらしいんだけど…一応シーツとかはちゃんと定期的に洗濯してあるから衛生面はそんなに不安はないよ。本当に申し訳ない。こんなことになって…」
「まあ…泊めてって最初に言ったのは俺たちだしね…5人でいれば怖くない…よね?」
颯の呼びかけに返事をしたのは郁と栗田だけだった。岸くんはどん引きだし谷村は現実逃避して「赤とんぼ」を聞き取るのがやっとの声で口ずさんでいる。
「トイレはそのつきあたりに。こっちはあまり衛生的とは言えないけど…」>5人は玄樹の指が指した先にある暗闇を見る。もし『トイレの花子さん』が実在するならばきっとこんなところから出てくるのだろう。谷村は行かずに済むよう水断ちを決意した。



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2018/02/04(日)19:57:34.16(nEQ5ib16T)


702ユーは名無しネ

AAS

NG

まどろみの奥でまたあの声が鳴っている。夢か現実かもおぼつかないままに身を起こすと次第に意識ははっきりとし始め、それと共に声は遠くへと去って行った。
「…」
けだるい体を2,3回ひねりながら嶺亜はベッドから降りた。まだ少しふらつくが頭痛も吐き気もない。父が飲ませてくれたアイスティーが功を奏したようだ。
「今後一切無理は禁物だ。お前を失ったらこの村は終わる」
父はキッチンに立っていた。普段はほとんど家事をすることのない彼がここにいるということはそれなりに心配してくれているということだろう。嶺亜は素直に頷いた。
「あの連中だが…」
フライパンを火にかけ、父が小声で呟く。嶺亜はすぐに栗田たちのことだと察した。
「道祖神への道が土砂崩れで通行止めになっているから、岩橋のところの使っていない病棟へとりあえず行ってもらった」
「病棟に…」
嶺亜は記憶の糸を手繰る。岩橋家はこの村唯一の病院で、昔は立派な病棟まであった。だが昭和初期までのことで現在は使われていない。取り壊そうにも大変な解体作業だからずっと放置してある。
父を診てもらう時に遠目にしか見たことはないが、かなり荒廃していてとてもではないが泊まりたくなるような建物ではなかった。
「あんなところに泊めるくらいなら、昨日みたいに礼拝堂にいてもらった方が良かったのに」
「そういうわけにもいかん。いつ夜の間に外に出られるか分からんからな。そうなるとお前の命も危ない。そんなことは絶対にさせられん。この老いぼれの命なら喜んで差し出すがな」
「…」
確かに危険ではある。だがその理由を話すわけにもいかないし、ただでさえも好奇心旺盛な連中なのだ。この村が抱えている事実に辿り着いてしまったらと思うと父の判断は正しかったと言わざるを得ない。
「…羽生田の倅は背分神社に無事送ったか?」
「うん。さんざん嫌味言われたけどね。ちゃんと棺桶にも入ったのを確認して出てきたよ」
「そうか…」
焦げ臭い臭いが鼻をつんざく。やはり父に料理は無理なようだ。話している間に焦がしてしまっている。嶺亜は交代し、フライパンを水に浸してサラダを作り始めた。
「あと四日…」
その呟きを父は聞き逃さない。聴力はそう衰えていないようだ。
「あと四日か…それさえ過ぎれば暫くは平穏な日がやってくる」
「四日もいてくれないだろうな…栗ちゃん」
今度は父に聞こえないよう、殆ど無声音で呟いた。
室内の窓という窓は全て閉ざされ、内戸も同様だ。雨音もしないし雲も少なかったからさぞかし鮮やかな星空が散りばめられているだろう。今更ながらに時計を見ると7時半を回ったところだった。
サラダを作り終え、味噌汁を作ろうとするとキン…と耳鳴りが走る。
「…」
嶺亜が顔を歪めたのを父は見逃していなかった。読んでいた本をたたんで
「そろそろか…今、どのあたりだ?」
「…棺桶を破った」
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2018/02/04(日)19:58:08.81(nEQ5ib16T)


703ユーは名無しネ

AAS

NG

なんでだ。なんでなんだ。どうしてなんだ。ああああああああああああ
暗闇の中で幾度となくその疑問を繰り返す。答える者などいないのは承知の上で。
谷村は嗚咽を漏らす。何故目を覚ましてしまったか、そして何故水断ちをしたはずなのに今猛烈にもよおしているのか。
やはりあれか…夕飯に出されたトマトスープをどんぶり一杯飲まされたからか…考えてみればスープだって水分だ。迂闊だった。
鉄格子の部屋は全部で4つ。5人だからそれぞれ一人ずつ三部屋と二人が一部屋で寝ることになった。谷村はそれとなく5人固まって寝ることを提案してみたがいかんせんベッドが各部屋に分かれてしまっている。
それでも一人でこんなところで寝るのは絶対に嫌だったので懇願して郁と二人にしてもらった。
郁はベッドで寝息をたてて深い眠りについている。リクエストした以上のごちそうが運ばれてきて満足して眠りについたからだろう。
「郁…郁…起きてくれ…トイレに行きたくないか…?」
問いかけて体を揺すってみたが返事はない。寝返りを打って谷村の願いを却下した。
「郁…頼む…トイレに付いてきてくれ…なんでも奢るから…」
プライドも何もかも捨てて、高校生の郁に懇願したが無情にも彼が目覚めることはなかった。そうしているうちにどんどん事態は深刻化する。
いっそ、ここでしてしまおうか…とも思ったがさすがにそれは倫理が許さない。こんな部屋でも一応は泊めてもらっているのだ。その中でするなど犬以下でしかない。さすがに人間でありたいと最後のプライドは保たれていた。
怖い。でも漏らしてしまうのは大学生にもなって情けなさすぎる。翌日栗田に爆笑されながら蹴られるのがオチだ。それも嫌だ。
真っ暗闇ならともかく、薄明かりが灯っていて余計に不気味さを増している。壁の亀裂や染みがまるで人の顔のように見えそこから目を反らした。
寝る前にそれとなく電気をつけて寝ることを申し出てみたが、栗田と颯に「暗くないと眠れない」と一蹴されてしまった。岸くんは同意しかけてくれたのに…
「!?」
谷村が恐怖と自尊心の狭間で苦しんでいるとそれは突然に視界に映る。颯らしき人影が鉄格子の向こうを横切った。
神様ありがとう…颯がトイレに起きてきたのだ。このチャンスを逃す手はない。
谷村は飛び起きて颯の後を追った。まるでホラー映画そのものの壊れかけたオンボロのトイレに颯はいた。
「助かった…颯、頼むから俺が終わるまで待っ…あっちょっと…!」
話しかけたが颯はもう用を足してしまったらしく半分夢遊病患者のように谷村の呼びかけには答えずうつらうつらと去って行く。
そんな殺生な…だがしかし来てしまった以上はもうこのまま戻れない。限界にまで達したものを処理しようとした。
「え…」
なんだかバチバチっとした羽音のようなものが聞こえたかと思うと次に世界が暗転する。見上げるとさっきまでうっすら点いていた蛍光灯が完全に沈黙してしまっていた。たった今切れてしまったのだ。
「酷い…神様…」
もう半分泣きながら用を足すと、次にそれを聴覚が捉えてしまった。
「なんだ…?」
何かが呻いているような…低く鳴るサイレンのような音が耳の奥をかすめる。
「…」
その音…いや、声?には聞き覚えがあった。そう、この村に自転車で到着し放浪していた時に聞いたあの音だ。
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2018/02/04(日)19:59:30.99(nEQ5ib16T)


704ユーは名無しネ

AAS

NG

作者さんいつもありがとう!
今回のお話怖い!!
タニムに同情する…

2018/02/11(日)01:14:05.18(A8K3GA+fx)


705ユーは名無しネ

AAS

NG

日曜ドラマ劇場「We beheld once again the Stars」
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2018/02/18(日)21:22:37.25(9z/XuE10p)


706ユーは名無しネ

AAS

NG

先を促す嶺亜を無視して挙武は神宮寺に問う。
「玄樹は?まだ寝てるのか?」
「お前今何時だと思ってんだよ。まだ6時過ぎだぜ。寝てるよ。昨日は夜遅くまで勉強してたみたいだしな」
神宮寺の返答に嶺亜がボソっと「僕は5時半に起こされたんだからね」とぼやいた。それを聞こえないフリをしていると、今度は彼が神宮寺に問いかけた。
「…栗ちゃんたち、病棟に閉じ込められたんだってね」
「栗ちゃん?」
変な固有名詞が出てきたことに挙武が疑問符を飛ばすと、神宮寺は嶺亜の問いに答える前に挙武のそれに答えた。
「昨日からこの村に迷い込んだおかしな連中たちのことさ。嶺亜から聞いてねえ?」
挙武は記憶を掘り起こす。そういえばそんなことを言っていたような…
「そうするように命じたのはお前の親父だろ。教会に泊めてやりゃ良かったのによ。最初はそうしたんだろ?」
「あれは緊急事態だったから仕方なくそうしたの。雨も降ってたし挙武は神社から出てこないだろうから大丈夫だと判断した。でも昨日は晴れてたし、8時過ぎには挙武の徘徊が始まってたから絶対に外に出すわけにはいかなかったから。
教会じゃ内鍵を閉めても万が一どこからか出られたらおしまいだし、窓も開けられるかもしれない。その点玄樹の家の病棟の地下室は、出入り口の扉さえ固く閉じていればその間は絶対に外に出られないからそっちの方が安全だってお父さんが判断したんだよ」
「ふうん…成程」
挙武と神宮寺は同時に頷いた。シンクロした動きがお互い可笑しくてまた吹き出してしまう。じゃれ合おうとすると嶺亜がうっとおしそうにそれを止めた。
「早く行くよ。僕はこの服着てるだけでキツいんだから」
「そんなに行きたいんなら先に行ってろよ。俺は自分でちゃんと家に帰れる」
「だから何度も言わせないでよ。挙武を家に送り届けるまでが僕の役目なの」
苛立ちを含ませた嶺亜の声に、神宮寺も肩をすくめる。
「お前何イラついてんの?アノ日かぁ?」
「うるさい。さっさと部屋に戻って玄樹の世話してきなよ。あと次下ネタ言ったら破門にするから」
「おーおーこえー。神父様に睨まれちゃこの村にいられねーもんな。くわばらくわば…」
嶺亜に軽口を叩いていた神宮寺の表情がさっと変わる。それまで余裕めいていたがばつが悪そうに片目を細めて下唇を噛んだ。

2018/02/18(日)21:23:25.42(9z/XuE10p)


707ユーは名無しネ

AAS

NG

「おお…嶺亜様…それに挙武様も…ご苦労様でございます…」
嗄れた声の持ち主は、玄樹の祖母で岩橋医院の先代院長だ。旧病棟がまだ閉鎖される前から先々代と共に女医として病院を切り盛りしていたやり手だと聞く。この村でもかなりの権力を持ち、教会と羽生田家に次ぐ権限を有している。
年寄りは早起きだ。きっと挙武たちの声を聞いて覗きに来たのだろう。
「神宮寺、嶺亜様と挙武様にご挨拶とはお前にしては感心だね」
「は…えっと…はい…」
挙武は笑いをこらえるのに必死だった。神宮寺は玄樹の祖母が大の苦手なのである。鬼ババアなんて可愛いもんじゃない、と常々ぼやいていた。やっかいになっている手前言いなりにならざるを得ないのである。
「挨拶なんてされてません。下ネタでからかわれたから注意しただけです」
しれっと嶺亜が答えて、神宮寺の顔が青ざめた。全く、いい性格してやがる…と挙武が呆れていると神宮寺は持てる限りの語彙力で言い訳を始めた。嶺亜はしてやったりといった表情である。
「大変失礼いたしました嶺亜様…神宮寺の躾は玄樹に一任しておりましたが…私めからもようく言い聞かせておきます。全く…これだからよそ者を置くことに反対したのに…」
「そんな怒らないでやって下さい。嶺亜の機嫌が悪いから神宮寺もそうせざるを得なかったわけで…俺からも謝っときますから」
挙武が悪友のために一肌脱ぐと、神宮寺は救い主を見る目で挙武を見つめてきた。まあいいってことよと目配せをすると、嶺亜がそれをじろりと睨みながら
「父が昨日無理を言ったそうですみません。栗…よそから来た人たちはまだ病棟にいますよね?」
「いえいえ神父様のお頼みでしたら喜んで。ええ、まだおります。なんでも道祖神の道が塞がっているそうなのでそれが復旧するまでとのこと。こんな時期ですから間違いがあってはいけませんもの」
「そうですか。彼らと少し話をしたいので案内していただく訳にはいきませんか?」
挙武は嶺亜を見る。早く行きたい、と言ったくせになんでこんな道草をするんだと訊きたかったがそうする前に快諾した玄樹の祖母に案内されて病棟に寄ることになってしまった。
歩きながら後ろで神宮寺が「覚えてやがれ嶺亜…」と恨めしそうに呟くのを、挙武は笑いを押し殺しながら聞いた。


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2018/02/18(日)21:23:53.19(9z/XuE10p)


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